『宮本武蔵』(みやもとむさし)は、吉川英治の新聞小説。朝日新聞に連載されたこの作品は、1935年の8月23日から、4年後の1939年7月11日まで続いた。 二天一流の開祖でもある剣豪・宮本武蔵の成長を描き、剣禅一如を目指す求道者・宮本武蔵を描いたこの作品は、日中戦争から太平洋戦争へと向かう戦時下で人気を得た。 しかし、小説の多くの部分、特に冒頭は殆どが吉川英治の創作であり、お通や又八などの存在をはじめ、沢庵との出会いも創作である。小説では武蔵は関が原の戦いで西軍に加わったことになっているが、剣豪として有名であった父の新免無二が関ヶ原の東軍の黒田家に仕官していたことを証明する黒田家の文書 があり、父とともに東軍として九州で参戦していた可能性が高いことなど、小説の前提が完全に史実に反している。 この小説による誤った宮本武蔵像がその後一般大衆にあたかも真実であるかのように広まったことに対し、吉川自身は、古橋広之進、升田幸三も本書のどこかを自身の精進に生かし得たということを「人づてに聞かされもした」「(よろこびとか張り合い以上に)苦痛にも似た自責をおぼえないではいられない」と述べている。