『巡査の居る風景』(じゅんさのいるふうけい)は、中島敦の短編小説。中島が第一高等学校在学中の20歳の時に発表した習作で、当時日本の植民地であった朝鮮を舞台にした一篇である。副題は「1923年の一つのスケッチ」であるが、省略して表記されることが多い。 シネマ手法に似た多面的なモンタージュ風の場面の積み重ねによる新感覚派的描写で、朝鮮人の差別の悲哀や民族の嘆きを表現しているこの作品は、当時隆盛だったプロレタリア文学的な要素を持ちつつ、それと同時に、のちの代表作『李陵』などに顕著な「人間の生のありよう」「人間と運命の葛藤相剋」といった中島の中核的な想念(人間認識)の萌芽がみられ、異文化・異質な人間(他者)との出会いや関係性に着目する中島の視座の前駆も垣間見られる作品となっている。そうした俯瞰的・客観的な洞察の認識の中には、同時代の政治告発系文学にはない、自己追求や存在の不条理性を見つめる中島独特の意識や原質が内包され、その視座を育てた中島の植民地体験を見る上で注目される作品の一つとなっている。