相同組換え(そうどうくみかえ、英: homologous recombination、略称: HR)は遺伝的組換えの一種であり、2つの類似したまたは同一の核酸分子(生物では通常DNAであるが、ウイルスではRNAの場合もある)の間でヌクレオチド配列が交換される過程である。相同組換えは、DNA二本鎖の双方の鎖に起こった有害な切断(二本鎖切断)を正確に修復するために細胞で最も広く利用されている手法である。また、真核生物が精子や卵といった配偶子細胞を形成する過程である減数分裂において、相同組換えによってDNA配列の新たな組み合わせが作り出される。このようにして生じたDNAの新たな組み合わせによって子孫に遺伝的多様性がもたらされ、進化過程における集団の適応を可能にする。相同組換えは遺伝子の水平伝播でも利用されており、細菌やウイルスのさまざまな系統や種の間で遺伝物質の交換が行われる。

Property Value
dbo:abstract
  • 相同組換え(そうどうくみかえ、英: homologous recombination、略称: HR)は遺伝的組換えの一種であり、2つの類似したまたは同一の核酸分子(生物では通常DNAであるが、ウイルスではRNAの場合もある)の間でヌクレオチド配列が交換される過程である。相同組換えは、DNA二本鎖の双方の鎖に起こった有害な切断(二本鎖切断)を正確に修復するために細胞で最も広く利用されている手法である。また、真核生物が精子や卵といった配偶子細胞を形成する過程である減数分裂において、相同組換えによってDNA配列の新たな組み合わせが作り出される。このようにして生じたDNAの新たな組み合わせによって子孫に遺伝的多様性がもたらされ、進化過程における集団の適応を可能にする。相同組換えは遺伝子の水平伝播でも利用されており、細菌やウイルスのさまざまな系統や種の間で遺伝物質の交換が行われる。 相同組換えの機構は生物種や細胞種によって多様であるが、二本鎖DNAに関するものは基本的に同じ段階を経て進行する。二本鎖切断が起こると切断部の5'末端周辺のDNA断片が除去される(resection)。続いて、resectionによって生じたDNAの3'末端のオーバーハングが、類似配列を持つDNA分子へと侵入する(strand invasion)。その後の過程は、DSBR経路(double-strand break repair)またはSDSA経路(synthesis-dependent strand annealing)という2つの主要な経路のいずれかで行われる。DNA修復の過程で起こる相同組換えは乗換えが起こっていない産物を作り出す傾向があり、損傷したDNA分子は二本鎖切断が起こる前の状態へと復旧される。 相同組換えは、生物の3つのドメイン、さらにDNAウイルスやRNAウイルスでも保存されており、ほぼ普遍的な生物学的機構であることが示唆される。原生生物(真核生物型微生物の大きなグループ)に相同組換えに関する遺伝子が存在することは、真核生物の進化の初期に減数分裂が出現したことの証拠として解釈される。これらの遺伝子の機能不全と一部のがんに対する感受性の高さとには強い関係があり、そのため相同組換えを促進するタンパク質に対して活発な研究が行われている。また相同組換えは、標的生物へ遺伝的変化を導入する技術である遺伝子ターゲティングにも利用されている。この技術の開発により、マリオ・カペッキ、マーティン・エヴァンズ、オリヴァー・スミティーズは2007年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。カペッキとスミティーズはマウスの胚性幹細胞への相同組換えの応用を独立して発見したが、形質転換されたDNAの相同領域への均一な取り込みなど、二本鎖切断修復モデルの背景にある高度に保存された機構は、Orr-Weaver、Szostack、Rothsteinによるプラスミドを用いた実験で初めて示された。1970年代から80年代にかけてはガンマ線照射を用いてプラスミドを用いた二本鎖切断修復の研究が行われていたが、その後、酵母よりも高頻度で非相同組換えが起こる哺乳類細胞では、などのエンドヌクレアーゼを用いて染色体を切断して実験が行われるようになった。 (ja)
  • 相同組換え(そうどうくみかえ、英: homologous recombination、略称: HR)は遺伝的組換えの一種であり、2つの類似したまたは同一の核酸分子(生物では通常DNAであるが、ウイルスではRNAの場合もある)の間でヌクレオチド配列が交換される過程である。相同組換えは、DNA二本鎖の双方の鎖に起こった有害な切断(二本鎖切断)を正確に修復するために細胞で最も広く利用されている手法である。また、真核生物が精子や卵といった配偶子細胞を形成する過程である減数分裂において、相同組換えによってDNA配列の新たな組み合わせが作り出される。このようにして生じたDNAの新たな組み合わせによって子孫に遺伝的多様性がもたらされ、進化過程における集団の適応を可能にする。相同組換えは遺伝子の水平伝播でも利用されており、細菌やウイルスのさまざまな系統や種の間で遺伝物質の交換が行われる。 相同組換えの機構は生物種や細胞種によって多様であるが、二本鎖DNAに関するものは基本的に同じ段階を経て進行する。二本鎖切断が起こると切断部の5'末端周辺のDNA断片が除去される(resection)。続いて、resectionによって生じたDNAの3'末端のオーバーハングが、類似配列を持つDNA分子へと侵入する(strand invasion)。その後の過程は、DSBR経路(double-strand break repair)またはSDSA経路(synthesis-dependent strand annealing)という2つの主要な経路のいずれかで行われる。DNA修復の過程で起こる相同組換えは乗換えが起こっていない産物を作り出す傾向があり、損傷したDNA分子は二本鎖切断が起こる前の状態へと復旧される。 相同組換えは、生物の3つのドメイン、さらにDNAウイルスやRNAウイルスでも保存されており、ほぼ普遍的な生物学的機構であることが示唆される。原生生物(真核生物型微生物の大きなグループ)に相同組換えに関する遺伝子が存在することは、真核生物の進化の初期に減数分裂が出現したことの証拠として解釈される。これらの遺伝子の機能不全と一部のがんに対する感受性の高さとには強い関係があり、そのため相同組換えを促進するタンパク質に対して活発な研究が行われている。また相同組換えは、標的生物へ遺伝的変化を導入する技術である遺伝子ターゲティングにも利用されている。この技術の開発により、マリオ・カペッキ、マーティン・エヴァンズ、オリヴァー・スミティーズは2007年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。カペッキとスミティーズはマウスの胚性幹細胞への相同組換えの応用を独立して発見したが、形質転換されたDNAの相同領域への均一な取り込みなど、二本鎖切断修復モデルの背景にある高度に保存された機構は、Orr-Weaver、Szostack、Rothsteinによるプラスミドを用いた実験で初めて示された。1970年代から80年代にかけてはガンマ線照射を用いてプラスミドを用いた二本鎖切断修復の研究が行われていたが、その後、酵母よりも高頻度で非相同組換えが起こる哺乳類細胞では、などのエンドヌクレアーゼを用いて染色体を切断して実験が行われるようになった。 (ja)
dbo:thumbnail
dbo:wikiPageExternalLink
dbo:wikiPageID
  • 690437 (xsd:integer)
dbo:wikiPageLength
  • 61446 (xsd:nonNegativeInteger)
dbo:wikiPageRevisionID
  • 92210464 (xsd:integer)
dbo:wikiPageWikiLink
prop-ja:wikiPageUsesTemplate
dct:subject
rdfs:comment
  • 相同組換え(そうどうくみかえ、英: homologous recombination、略称: HR)は遺伝的組換えの一種であり、2つの類似したまたは同一の核酸分子(生物では通常DNAであるが、ウイルスではRNAの場合もある)の間でヌクレオチド配列が交換される過程である。相同組換えは、DNA二本鎖の双方の鎖に起こった有害な切断(二本鎖切断)を正確に修復するために細胞で最も広く利用されている手法である。また、真核生物が精子や卵といった配偶子細胞を形成する過程である減数分裂において、相同組換えによってDNA配列の新たな組み合わせが作り出される。このようにして生じたDNAの新たな組み合わせによって子孫に遺伝的多様性がもたらされ、進化過程における集団の適応を可能にする。相同組換えは遺伝子の水平伝播でも利用されており、細菌やウイルスのさまざまな系統や種の間で遺伝物質の交換が行われる。 (ja)
  • 相同組換え(そうどうくみかえ、英: homologous recombination、略称: HR)は遺伝的組換えの一種であり、2つの類似したまたは同一の核酸分子(生物では通常DNAであるが、ウイルスではRNAの場合もある)の間でヌクレオチド配列が交換される過程である。相同組換えは、DNA二本鎖の双方の鎖に起こった有害な切断(二本鎖切断)を正確に修復するために細胞で最も広く利用されている手法である。また、真核生物が精子や卵といった配偶子細胞を形成する過程である減数分裂において、相同組換えによってDNA配列の新たな組み合わせが作り出される。このようにして生じたDNAの新たな組み合わせによって子孫に遺伝的多様性がもたらされ、進化過程における集団の適応を可能にする。相同組換えは遺伝子の水平伝播でも利用されており、細菌やウイルスのさまざまな系統や種の間で遺伝物質の交換が行われる。 (ja)
rdfs:label
  • 相同組換え (ja)
  • 相同組換え (ja)
owl:sameAs
prov:wasDerivedFrom
foaf:depiction
foaf:isPrimaryTopicOf
is dbo:wikiPageRedirects of
is dbo:wikiPageWikiLink of
is owl:sameAs of
is foaf:primaryTopic of