力学系におけるアトラクター(英語: attractor)とは、時間発展する軌道を引き付ける性質を持った相空間上の領域である。力学系において重要なトピックの一つ。引き込まれた後の軌道は、アトラクター内に留まり続ける。アトラクターへ引き込まれる初期値の集合はベイスンや吸引領域と呼ばれる。 アトラクターは、その構造・性質にもとづき点アトラクター、周期アトラクター、準周期アトラクター、ストレンジアトラクターの4種類に分類される。点アトラクターはもっとも単純で、周りの軌道を引き寄せる1つの点である。周期アトラクターと準周期アトラクターは、連続力学系でいえばそれぞれ閉曲線とトーラスの形を成す。ストレンジアトラクターは、カオスと呼ばれる非周期的軌道から成るアトラクターで、バタフライ効果として知られる初期値鋭敏性とフラクタルな幾何学的構造を持つ。 物理的なアトラクターの典型的な例は、減衰や摩擦を受けて振動しながら最終的に静止する振り子で、これは点アトラクターの一種である。実現象で起こるアトラクターを限られた時系列データから再現する手法はアトラクターの再構成として知られ、実現象の力学系的性質の調査や、実物の品物に対する異常検出といった応用研究にも用いられる。