数学のおもに線型代数学および函数解析学における行列の平方根(ぎょうれつのへいほうこん、英: square root of a matrix)は、数に対する通常の平方根の概念を行列に対して拡張するものである。すなわち、行列 B が行列 A の平方根であるとは、行列の積に関して B2 = BB が A に等しいときに言う。 「実数の平方根は必ずしも実数にならないが、複素数は必ず複素数の範囲で平方根を持つ」ことに対応する事実として、実行列の平方根は(存在しても)必ずしも実行列にならないが、複素行列が平方根を持てばそれは必ず複素行列の範囲で取れる。 平方根を持たない行列も存在する。 また一般に、ひとつの行列が複数の平方根を持ち得る。実際、2 × 2 単位行列は次のように無数の平方根を持つ。 このように行列の平方根は無数に存在しうるが、半正定値行列の範疇で行列の主平方根 (principal square root) の概念が定義できて「半正定値行列の主平方根はただ一つ」である(これは「非負実数が非負の平方根(主平方根)をただ一つだけ持つ」という事実に対応する)。

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  • 数学のおもに線型代数学および函数解析学における行列の平方根(ぎょうれつのへいほうこん、英: square root of a matrix)は、数に対する通常の平方根の概念を行列に対して拡張するものである。すなわち、行列 B が行列 A の平方根であるとは、行列の積に関して B2 = BB が A に等しいときに言う。 「実数の平方根は必ずしも実数にならないが、複素数は必ず複素数の範囲で平方根を持つ」ことに対応する事実として、実行列の平方根は(存在しても)必ずしも実行列にならないが、複素行列が平方根を持てばそれは必ず複素行列の範囲で取れる。 平方根を持たない行列も存在する。 また一般に、ひとつの行列が複数の平方根を持ち得る。実際、2 × 2 単位行列は次のように無数の平方根を持つ。 このように行列の平方根は無数に存在しうるが、半正定値行列の範疇で行列の主平方根 (principal square root) の概念が定義できて「半正定値行列の主平方根はただ一つ」である(これは「非負実数が非負の平方根(主平方根)をただ一つだけ持つ」という事実に対応する)。 2 × 2 行列が、相異なる二つの非零固有値を持つならば、それは四つの平方根を持つ(より一般に、相異なる n 個の非零固有値を持つ n × n 行列は 2n 個の平方根を持つ)。実際に、そのような仮定を満たす行列 A は A の固有ベクトルを列ベクトルに持つ行列 V とそれに対応する固有値を対角成分に持つ対角行列 D を用いて A = VDV−1 と固有値分解できるから、A の平方根は VD½ V−1 で与えられることがわかる。ただし、D½ は D の任意の平方根で、それは D の対角成分の任意の平方根を同じ位置の対角成分として持つ対角行列であり、その選び方は 2n 通りある。同じ理由で、上で述べた「半正定値行列の主平方根がただ一つに定まる」ことも言える—半正定値行列 A の全ての非負固有値の主平方根を対角成分に持つ対角行列を D½ とする行列 VD½ V−1 はただ一つしかない。 適当な冪零行列 N を用いて I + N の形に書ける行列の平方根 (I + N)½ は、二項級数に対する汎函数計算で求められる。同様に、行列の指数函数 exp, 対数函数 log が既知ならば、 exp(½⋅log(A)) を A の(主)平方根とすることができる(収束性に注意せよ)。 (ja)
  • 数学のおもに線型代数学および函数解析学における行列の平方根(ぎょうれつのへいほうこん、英: square root of a matrix)は、数に対する通常の平方根の概念を行列に対して拡張するものである。すなわち、行列 B が行列 A の平方根であるとは、行列の積に関して B2 = BB が A に等しいときに言う。 「実数の平方根は必ずしも実数にならないが、複素数は必ず複素数の範囲で平方根を持つ」ことに対応する事実として、実行列の平方根は(存在しても)必ずしも実行列にならないが、複素行列が平方根を持てばそれは必ず複素行列の範囲で取れる。 平方根を持たない行列も存在する。 また一般に、ひとつの行列が複数の平方根を持ち得る。実際、2 × 2 単位行列は次のように無数の平方根を持つ。 このように行列の平方根は無数に存在しうるが、半正定値行列の範疇で行列の主平方根 (principal square root) の概念が定義できて「半正定値行列の主平方根はただ一つ」である(これは「非負実数が非負の平方根(主平方根)をただ一つだけ持つ」という事実に対応する)。 2 × 2 行列が、相異なる二つの非零固有値を持つならば、それは四つの平方根を持つ(より一般に、相異なる n 個の非零固有値を持つ n × n 行列は 2n 個の平方根を持つ)。実際に、そのような仮定を満たす行列 A は A の固有ベクトルを列ベクトルに持つ行列 V とそれに対応する固有値を対角成分に持つ対角行列 D を用いて A = VDV−1 と固有値分解できるから、A の平方根は VD½ V−1 で与えられることがわかる。ただし、D½ は D の任意の平方根で、それは D の対角成分の任意の平方根を同じ位置の対角成分として持つ対角行列であり、その選び方は 2n 通りある。同じ理由で、上で述べた「半正定値行列の主平方根がただ一つに定まる」ことも言える—半正定値行列 A の全ての非負固有値の主平方根を対角成分に持つ対角行列を D½ とする行列 VD½ V−1 はただ一つしかない。 適当な冪零行列 N を用いて I + N の形に書ける行列の平方根 (I + N)½ は、二項級数に対する汎函数計算で求められる。同様に、行列の指数函数 exp, 対数函数 log が既知ならば、 exp(½⋅log(A)) を A の(主)平方根とすることができる(収束性に注意せよ)。 (ja)
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  • 数学のおもに線型代数学および函数解析学における行列の平方根(ぎょうれつのへいほうこん、英: square root of a matrix)は、数に対する通常の平方根の概念を行列に対して拡張するものである。すなわち、行列 B が行列 A の平方根であるとは、行列の積に関して B2 = BB が A に等しいときに言う。 「実数の平方根は必ずしも実数にならないが、複素数は必ず複素数の範囲で平方根を持つ」ことに対応する事実として、実行列の平方根は(存在しても)必ずしも実行列にならないが、複素行列が平方根を持てばそれは必ず複素行列の範囲で取れる。 平方根を持たない行列も存在する。 また一般に、ひとつの行列が複数の平方根を持ち得る。実際、2 × 2 単位行列は次のように無数の平方根を持つ。 このように行列の平方根は無数に存在しうるが、半正定値行列の範疇で行列の主平方根 (principal square root) の概念が定義できて「半正定値行列の主平方根はただ一つ」である(これは「非負実数が非負の平方根(主平方根)をただ一つだけ持つ」という事実に対応する)。 (ja)
  • 数学のおもに線型代数学および函数解析学における行列の平方根(ぎょうれつのへいほうこん、英: square root of a matrix)は、数に対する通常の平方根の概念を行列に対して拡張するものである。すなわち、行列 B が行列 A の平方根であるとは、行列の積に関して B2 = BB が A に等しいときに言う。 「実数の平方根は必ずしも実数にならないが、複素数は必ず複素数の範囲で平方根を持つ」ことに対応する事実として、実行列の平方根は(存在しても)必ずしも実行列にならないが、複素行列が平方根を持てばそれは必ず複素行列の範囲で取れる。 平方根を持たない行列も存在する。 また一般に、ひとつの行列が複数の平方根を持ち得る。実際、2 × 2 単位行列は次のように無数の平方根を持つ。 このように行列の平方根は無数に存在しうるが、半正定値行列の範疇で行列の主平方根 (principal square root) の概念が定義できて「半正定値行列の主平方根はただ一つ」である(これは「非負実数が非負の平方根(主平方根)をただ一つだけ持つ」という事実に対応する)。 (ja)
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  • 行列の平方根 (ja)
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