ムハンマドの表象(ムハンマドのひょうしょう)は、イスラム世界において一筋縄ではいかない問題である。歴史を通じて、ムハンマドの人相や風体を口承や文書によって伝えることが問題になることは少なかったが、視覚的に描写することはその許容範囲について意見が一致しない。コーランにははっきりとムハンマドの肖像画を禁じているととれる箇所はないものの、いくつかのハディースがムハンマドの姿を視覚的に描写することを明確に禁じている。ムハンマドの外見について視覚的に描写することはあらゆる意味で伝統的であったとはいえないものの、ムハンマドの肖像画の存在を伝える古い文献や、外見の特徴を書き記したものが残っており、その特徴については正しいとされることが多い。 ムハンマド画をはじめとしてイスラム美術における視覚表象を宗教美術として許容しうるかという問題は、学者のあいだでも意見の一致をみない。宗教的な人物でも歴史や詩歌の著作であればふつう挿絵がつくのに対し、コーランはそれがない。「文脈と意図の把握が、イスラムの絵画美術を理解するうえでは欠かせない。ムハンマド像を創り出したムスリム画家たちも、それを鑑賞したムスリム社会も、それが崇拝の対象ではないことを理解していた。たとえそれが装飾として崇拝対象の一部をなしていたとしても」。